失敗を恐れるな2

私はアメリカでキャリアを積むなかで、多くの失敗を重ねてきました。失敗を恐れて安全な道を進むことはチャンスを逃していることだと私は考えます。失敗だと思ったことから人生が新しい方向に開けて来ることもあります。ですから、前向きに挑戦するという気持ちをいつも忘れてはいけないと思います。何を失敗と捉えるかにもよりますが、生きていれば人間は必ず失敗するものです。失敗を避けていても失敗することはあるのです。

アメリカの大学やその他のマネジメント職の面接では今までにした大きな失敗はないか?  それにどのように対処したか?それをどのように活かすことができたか?というような質問がされます。失敗のない人間、失敗をうまく解決できない人間はマネージャーが直面するような大きな問題を解決することができないと考えられているのです。

自分のキャリアを発展させていくためには、キャリアの転換点となるような要所を抑えて運を掴む力が必要となってきます。その他のところで失敗することは大したことではありません。失敗は避けられないのですから、むしろ失敗をすることは良いことです。それではどうしたら運を掴めるか?というと、それには運を見極める勘が必要となってきます。ここは重要だ!と自分の心が反応する瞬間には全力を尽くさなければいけません。勘を磨き、運を掴むためには普段からの地道な努力が必要となってきます。努力をしていればチャンスは自ずと見えてくると思いますし、チャンスに全力を尽くすこともできます。小さな失敗で落ち込んでいてはチャンスに力を発揮できずに逆に大きな運を逃すことにもなりかねません。

それでは、私がキャリアを積む中で実際に失敗した例を挙げてみます。

身近な例でいうと、研究成果をまとめて論文投稿したら希望のジャーナルにリジェクトされた、研究費の申請が認められなかったなどです。研究者なら日常茶飯事のことでしょう。実際に私も論文数が少なかったキャリアの初期の頃は、論文投稿の結果に一喜一憂していました。しかし今となっては、論文が拒絶されれば他のジャーナルに投稿し直せば良いと思うだけです。研究費も、近年のNIHの採択率は10%を切っていることが多いので、半分はくじのようなものだと思っています。これらは多くの研究者に共通しますし、実際に経験されている方も多いでしょう。要はこうした失敗にできるだけエネルギーを削がれずに前向きなことに力を尽くすことができるかが大切です。打たれ強さはアカデミアで生き残るのには必須の能力と言って良いのではないでしょうか。

研究費でいうと、若手の頃にNIH(国立衛生研究所)のNCI (国立がん研究所)のキャリア・ディベロップメントグラントを獲得したのですが、通常は5年間にわたって支給されるところ、若手にしては論文数が多いという理由で4年に短縮されてしまったことがありました。これ自体は失敗というかは微妙ですが、私にとってはあまり面白くない出来事には違いありません。しかし、期間が4年に短縮されたことで、2年目には既により大きな研究費(R01というアメリカではスタンダードなグラント)に応募する気になったのが幸いしました。そしてタイミングよく  私にとっては最初のR01グラントを1回目の応募で獲得できたのです。その4年後にはキャリア・ディベロップメントグラントとこのR01グラントが1年間も重なったおかげで、より高額の7年間グラントであるR35傑出研究者賞の応募資格を得ることができて、そのグラントの獲得につながりました。

また、最も大きな失敗で、私のキャリアの転換点になった出来事があります。詳しくはまた日本からアメリカへシリーズで書こうと思っているのですが、アメリカで病理科学の研修を終えて、ペンシルバニア大学でポスドクをしていたときのことです。当時の私は日本人気質がまだ完全には抜けていなかったせいで、ポスドクが終わった後に職探しなどせず、ファカルティ(教員)のポジションのオファーが 来るのを待っていました。しかし残念なことにペンシルバニア大学からのポジションのオファーはなく、次のポジションを自力で探さなければならなくなりました。そこで私は全米各地の大学50箇所くらいに履歴書を送りまくり、就職活動をしました。当初は芳しくなく、インタビューにもほとんど呼ばれることはなくはっきり言って苦境に立っていました。しかしながら、あきらめずに粘り強く就職活動を続けていきました。そして2個所だけインタビューに呼ばれたうちの一つが、分子病理診断学の専門家を探していた ブリガム・アンド・ウィメンズ病院とダナ・ファーバーがん研究所による共同ポジション(ハーバード大学のインストラクターというジュニア・ファカルティ職)で、そこに運よく採用されることになりました。これは同時に私のキャリアにおける最大のメンターにして、最大の共同研究者である消化器癌専門医のフュークス博士との出会いでもありました。これは自分にとっては失敗をチャンスに変えた最良の例と言えると思います。

やはり、どんな状況にあっても諦めない精神力が大切だと思います。

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