大腸がんの病理組織画像のAIのマシーンラーニング解析による患者の予後と治療成果の予測の成功

先日、我々の研究室とDr. Yuの研究室の画期的な共同研究成果がNature Communications誌に掲載されました。

https://www.nature.com/articles/s41467-023-37179-4

癌の疑いがある場合、患者から組織の一部を取り出して生検が行われます。取り出された癌組織は我々病理医が顕微鏡を用いて目視し、癌かどうか、広がりや悪性度などの情報を経験に基づいて診断しています。また、近年は私の専門とする分子病理学検査によって癌によくみられる遺伝子の変異を検出することが可能になっており、顕微鏡による病理画像診断に加えてより正確に癌の種類を診断し、癌の遺伝子変異に特異的に効く抗がん剤投与が可能になっています。

しかしながら、顕微鏡を用いた肉眼での病理診断は個々の病理医の経験や技術により判断が異なることもあります。また、形態のみの情報から、治療方針を決定する際に重要な遺伝子レベルの癌の変異まで完全に感知し判断することはできませんでした。そこで我々は大腸がんの病理組織の画像をAIのマシーンラーニングにより学習させ、癌の分子異常の検出と癌の細分類をすることで患者の癌の進行度合い、適切な治療法、予後について予測ができないかを検討しました。その結果、AIは病理医が目視で判別できないような微細な癌の特徴を捉えて分類し、従来の病理診断より正確な予後の予測ができることがわかったのです。

よりわかりやすく言うと、近い将来、生検をしてAIに病理画像を解析させると病理医が診断しなくてもより正確な診断を行うことができることができるようになる可能性が高いということです。すると現在のような病理医の仕事は少なくなると予想されます。我々病理医はAIを監督するような仕事、あるいは新しい病理学を創造し、実践するというような仕事をするようになるでしょう。そういうわけで私は病理医の仕事自体がなくなるわけではないと思っています。

この研究成果はハーバードメディカルスクールのニュースを始めとして、様々なニュースメディアに取り上げられました。

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