日本病理学会での講演内容

無事に日本での講演を終えました。

病理学会では午前及び午後の2回講演を行ったのですが、午前は病理学会の参加者のみを対象とした免疫分子病理疫学についての講演で、午後は癌予防の重要性と免疫学の予防における重要性についての一般向けの講演でした。

何れの講演にも多くの方(正確には分かりませんが恐らく前半は250名以上、後半は200名以上)にお越し頂きました。

免疫分子病理疫学については過去記事の中でも触れていますので、今回は癌予防についての一般向け講演の内容について書きたいと思います。

癌は治療が大変難しい病気です。

なぜなら、癌は発見時には発生からすでに長期間が経過しており、その間に癌細胞を駆除すると考えられる、人体の免疫システムへの対応力などを獲得してしまっています。

従って、抗癌剤などで治療をしても焼け石に水であることも多く、現在話題の免疫療法の効き目も多くの場合は限定的です。

癌はその人の人生とほば同じ時間をかけて人体に潜伏していると考えられます。従って、その期間の対策、即ち癌予防を母親の胎内にいるころから積極的に推進する方が大局的には治療の何倍もの効果が得られるはずなのです。

癌予防のためには癌の原因を知り対策を立てる必要がありますが、癌の原因は複雑です。喫煙や食生活などの生活習慣、遺伝的要因、腸内細菌、免疫システム等の様々な要因があります。

予防には多角的なアプローチが必要でかつ、長期間の研究と対策が必要となります。また、何が奏功して癌にならなかったのか、特定することも容易ではありません。発生を防げた癌は存在しないので、通常の研究方法では解析できないからです。

それゆえと言って良いのか、癌治療の研究成果に世間の目が向きがちで、現在の癌関連の研究費の90%以上が癌治療研究に投じられており、癌予防研究が遅々として進みません。もちろん、癌治療は必要ですがもっと予防に投資をしても良いと私は考えます。

災害対策などでもそうですが、大抵は起こってから対策が進みます。未然に防げたとしても誰からも感謝されないことが多いし、予防効果は常に過小評価されます。

私が主導する分子病理疫学(MPE)は、生活習慣や遺伝的要因等が複雑に関与する癌の発生機序を人間の集団のデータを用いて解明することができます。免疫システムや腸内細菌を介した癌の抑制なども免疫学MPE微生物学MPEで解明することができるのです(詳しくは過去記事のリンクを見てください)。

このような研究成果はかれこれ過去5年間、私の研究室のみが世界に先行して独走中で、研究成果を発表し続けています。再現性の観点からも他の研究室からも同様の研究成果が発表されることを望みますが、他の研究室からの成果の発表まではまだしばらくかかりそうです。

さて、次は中国での仕事です。

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